建設業許可を取得するためには、建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を備えていることが必要です。
この要件を満たすための代表格が経営業務管理責任者いわゆる「経管」と呼ばれるもので、一番の王道パターンなので、建設業許可を取得するためには、経営業務管理責任者の要件を必ず満たさなくてはならないと思われがちです。
もちろん、この要件を満たすことができるなら真っ先にこのルートでいくのが鉄則ですが、必ずしも経営業務管理責任体制の要件を満たす方法はこのルートだけではありません。
当事務所は、三郷市・吉川市・松伏町・八潮市・越谷市・草加市の5市1町を中心に、主に埼玉県東部(埼葛地域)で、建設業メインの行政書士として活動しておりますが、この経営業務管理責任体制について、
・自分のこれまでの経験で経営業務管理責任者になれるのか
・経営業務管理責任者の要件を満たさないが、何か他に方法は無いか
といった疑問をお持ちの事業者様も多い印象です。
この記事では、経営業務管理責任体制の基本的な考え方と、要件を満たすための主なルートについて解説します。
建設業許可で求められる「経営業務管理責任体制」とは?
建設業は一品ごとの注文生産であり、一つの工事の受注ごとにその工事の内容に応じて資金の調達、資材の購入、技術者及び労働者の配置、下請負人の選定及び下請契約の締結を行う必要があります。
また、その内容に応じた施工管理を適切に行わなければならないことから、建設業における経営業務管理責任体制の確立が求められます。
経営業務管理責任体制の確立は営業所技術者の確保と並んで、建設業許可における2大ハードルとなっています。
▶関連記事:埼玉県で建設業許可を取得するには?営業所技術者になる3つのルートを解説(リンク)
ポイント① 建設業の経営経験があること
建設業は、前述したように一品ごとの受注や技術者等の配置、元請・下請の関係性など、他の業界とは異なる特徴を有することから、経営業務管理責任体制の確立にあたっては、建設業に関する経営経験を有する必要があります。
つまり、求められているのは建設業に関する経営面でのプロであり、他業種で豊富な役員経験を有していても、建設業に関する経営経験が無い場合は要件を満たすことができません。
ポイント② 建設業の経営経験は業種を問わない
令和2年10月施行の改正以前は、建設業の経験と言っても、取得したい業種での経験が必要でしたが、法改正を機に建設業であれば業種を問わず経営経験に含まれることとなりました。
ここは、営業所技術者等の実務経験と大きく異なる部分で、営業所技術者等は「技術のプロ」なので、その業種での経験が求められますが、経営業務管理責任者等は「経営のプロ」なので、特定の業種に限定されることなく、建設業全体での経験が認められています。
▶ 関連記事:資格がなくてもOK!埼玉県における実務経験での営業所技術者証明方法を徹底解説(リンク)
ポイント③ 個人又は組織で要件を満たす必要がある
建設業許可の取得においては「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力」を有していることが求められますが、この能力は会社として有していればよく、経営業務管理責任者(個人)の要件を満たすことが難しい場合は、組織として体制を整えることで要件を満たすことが可能です。
このポイントをしっかり押さえていないと、経営業務管理責任者を配置できない=建設業許可不可と勘違いしてしまい、せっかくの可能性を閉ざしてしまうことになりかねないので、組織として要件を満たすことが可能であるということは、しっかりと頭の片隅に入れておきましょう。
ポイント④ 「専任」ではなく「常勤」が求められる
経営業務管理責任等に求められるのは「常勤」です。
常勤とは、原則として本社等において休日その他勤務を要しない日を除き一定の計画のもとに毎日所定の時間中、その職務に従事(テレワーク含む)している状態のことを言います。
実務で混同しやすい点として、営業所技術者等においては「常勤」+「専任」が求められることに対して、経営業務管理責任等には「常勤」が求められる(専任までは求められていない)ということは意識しましょう。
営業所技術者等は、発注者保護のために、請負工事における技術的な危険等の回避や、営業所との緊密な連絡、緊急性の高い事案への対応が求められることから専任(もっぱら従事=他社等と兼務していない)が求められるのに対し、経営業務管理責任等は自社の資金繰りや経営状況の管理が求められるため、営業所技術者等と比較して職務の緊急性を求めれられる場面が少ないことや、経営者は複数の会社を経営していることも多いことから、専任までは求められていません。
なお、複数の会社の役員になっている場合でも、原則として他の会社においては非常勤であることが求められます。
▶関連記事:建設業許可の「常勤」と「専任」の違いを整理し、主な証明書類もまとめました(リンク)
経営業務管理責任体制の要件で検討すべきルートの順番
ポイント③でも挙げましたが、経営業務管理責任体制の要件を満たすためには、
①個人で要件を満たすルート
②組織(チーム)体制で要件を満たすルート(一般的にロ該当と言われます。)
の2つのルートがあります。
このうち、真っ先に検討すべきなのは①個人で要件を満たすルートです。
組織とあるように、②の組織(チーム)体制で要件を満たすルートは、複数人が絡むため立証する要件も多く、労力も時間も難易度も上がります。あくまでも、②組織(チーム)体制で要件を満たすルートは最終手段の位置付けであるという認識をしておきましょう。
その上で、①個人で要件を満たすルートにも複数の方法があります。
以下、順番に紹介していきますが、手段①から順に検討していくことが重要です。
なお、いくら要件を満たしていても、その要件を満たしている方が申請時に常勤であることが必須条件ですので注意しましょう。
手段① 5年以上の建設業に関する経営業務の管理責任者の経験
経営業務の管理責任者の経験とは、建設業の営業活動において、対外的に責任を有する地位にあって、経営業務の執行等について総合的に管理した経験のことを言います。
この「対外的に責任を有する地位」というのは、必ずしも代表取締役のみをさすものではなく、持分会社の業務執行社員や取締役、個人の事業主又は支配人その他支店長も対象になる場合があります。
ポイント
「経営業務の管理責任者」になり得るのは、法人の場合は「常勤の役員」、個人の場合は「その者又はその支配人」ですが、「経営業務の管理責任者」になるために必要な経験は、支店長や営業所長としての経験も含められます。ただし、単なる連絡所の長や工事の施工に関する現場事務所の長としての経験は含まれません。あくまでも経営業務の経験が重要です。
手段② 5年以上の建設業に関する経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者としての経験
まず、この手段②を検討する上で重要なのが、経営業務を執行する権限の委任を受けた者であるかどうかということです。
権限の「委任」と言う言葉が出てきますが、ここでいう経験は、取締役会設置会社での経験であることが前提となっています。
つまり、個人事業主での経験等は認められません。
取締役会設置会社において、取締役会の決議により特定の事業部門に関して業務執行権限の委譲を受ける者として選任され、かつ、取締役会によって定められた業務執行方針に従って、代表取締役の指揮・命令のもとに、具体的な業務執行に専念した経験をいいます。
ポイント
この手段を検討する対象者としては、例えば建設会社で5年間「建設事業本部の執行役員」をしていたが登記上の取締役ではない者等が想定されます。
ここで、気をつけなければいけないのが、この要件に該当する者の中には手段①要件を満たす者よりも職位が上の者が該当する場合があるということです。
あくまでも重要なのは職位ではなく、経営業務における対外的な責任や立場です。
手段①のルートは対外的な書類(履歴事項全部証明書や契約書等)で証明するのに対し、手段②のルートは社内の書類(組織図や定款、議事録等)で証明することになります。
手段③ 6年以上の建設業に関する経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務管理責任者を補佐する業務に従事した経験(補佐経験)
あまりにも要件が長いので、非常に分かりにくくなっていますが、手段①のように対外的に責任を有したり、経営業務を管理していたわけではないが、その者に次ぐ地位で経営業務全般に従事していた者を対象とするものです。
この補佐経験は手段②と違って、法人・個人は問われません。
場合によっては個人事業主の事業専従者(妻子等)が該当となることもあります。
【重要】手段①~③の合わせ技も可能です
ここまで、手段①から手段③まで説明しましたが、それぞれの手段に応じた年数が無いからダメかと言うと必ずしもそういうわけでは無く、それぞれの経験年数が足りない場合は合わせ技で要件を満たすことが可能です。
具体的には埼玉県の手引きによると、
・手順①+手順②=5年以上
・手順①+手順②+手順③=6年以上
の場合も、要件を満たします。
ただし、手順①以外の方法で経営業務管理責任者を設置する場合には確認資料等について事前に県に相談しましょう。
手段④ 一定の要件を満たした常勤役員+その役員を直接補佐する者
これは一般的にロ該当と呼ばれるもので、個人で要件を満たすことが難しいため、組織(経営業務管理責任体制)で要件を満たすものです。
この制度が導入された背景には担い手の確保があります。
従来は、これまで経営してきた経営業務管理責任者が、引退を機に誰かに建設業を引き継ぐ際に、個人で要件を満たす者がいなければ廃業せざるを得ないという現状がありました。
そこで、
①一定の要件を満たした常勤役員
②その役員を直接補佐する者
という2つの要件を満たす経営業務管理責任「体制」を作ることで、個人の経験以外にも要件を満たすことが可能となりました。
このロ該当が想定される状況としては、例えば、経験年数が足りない常勤役員(後継者)を社内の人員で補佐する場面や、社内に該当者がいないため、他社から要件を満たした常勤役員(自社での経験不要)を招聘して、社内の人員で補佐する場面などが挙げられます。
なお、後述しますが、役員を直接補佐する者には5年以上の自社経験が必要なため、裏を返せば設立から5年未満の建設業者はロ該当での申請はできないということになります。
①一定の要件を満たした常勤役員及び②その役員を直接補佐する者の要件は以下の通りです。
一定の要件を満たした常勤役員とは
一定の要件を満たした常勤役員とは次の①又は②を満たす者のことを言います。
簡単に説明すると、①は建設業での経験、②は建設業+他業種での経験がそれぞれ要件になっています。
①建設業の役員等の経験が2年以上+建設業での役員等又は役員等に次ぐ地位にある者としての経験が左記含め5年以上
→役員等に次ぐ地位である者は建設業における財務管理、労務管理又は業務運営の業務を経験した者に限ります。
(例)建設業の取締役の経験2年+建設業の総務部長(役員等に次ぐ職位)での労務管理の経験3年
②建設業の役員等の経験が2年以上+異業種での役員等の経験が3年以上
(例)建設業の取締役の経験2年+製造業の取締役の経験3年
その役員を直接補佐する者とは
その役員を直接補佐する者とは、常勤役員の経験不足を補完するために、「財務管理」「労務管理」「業務運営」の経験をそれぞれ5年有している者をいいますが、以下の点に気をつけなくてはいけません。
①補佐する者は1人でも複数人(最大各業務ごとに3人)でも構いません。
②この場合の5年以上の経験は自社での経験でなくてはいけません。
③直接に補佐する者でなくてはいけません。
→この場合の「直接に補佐」とは、組織体系及び実態として、常勤役員等との間に他の者を介在させることなく、直接指揮命令を受け業務を常勤で行うことを言います。
組織(ロ該当)で申請する場合の注意点
手段④のロ該当での申請は常勤役員の経験年数の少なさを、直接に補佐をする者をつける体制整備を図ることでカバーする方法ですが、その後、常勤役員が経験年数を重ねることで以下の点に注意する必要があります。
①5年後の更新時には常勤役員等は5年以上の経験年数を保有することになるため、直接補佐者は削除する必要があります。
②直接補佐者が事後に取締役に昇進すると、「直接に補佐」には該当しなくなるため、事前に県に確認しましょう。
経験があることの「証明」が必要
経営業務管理責任者等の要件を満たすためには、ただ「5年以上取締役をやっていました」と説明するだけでは当然ダメで、その経験について行政機関が客観的に判断するための資料が必要となります。
経営業務管理責任者等の審査においては「常勤」と「経験」をいかに裏付けるかが特に重要となり、これらを証明するためには、社会保険加入記録や契約書など、申請者以外が作成した客観性のある文書を揃えていく必要があります。
これは、私自身も公務員時代に経験していたことですが、担当者は庁内の決裁過程において、上司から様々な説明を求められます。そして、その際に提出された資料に不明な点があると、担当者が明確に説明ができない場合は、それ以上決裁が進まない(=補正対象になる)ことになるため、その様な事態を避けるために担当者は誰が見ても判断できる(=上司に自分が説明できる)資料の提出を求めます。
以上のことから、スムーズな申請を実現するためには証明資料は担当者の気持ちになって、客観的に説明できる資料を用意することが重要です。
まとめ
建設業許可では、建設業に係る経営業務の管理を適正に行うため、一定の経営業務管理責任体制を整える必要があります。
一般的には、5年以上の経営業務の管理責任者としての経験を有する常勤役員等を置く方法が最も分かりやすいですが、これまで解説してきたように、要件を満たす方法は一つだけではありません。
まずは、次の順番で検討していくことが重要です。
<個人で要件を満たす場合>
手段① 5年以上の建設業に関する経営業務の管理責任者の経験
手段② 5年以上の建設業に関する経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者としての経験
手段③ 6年以上の建設業に関する経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務管理責任者を補佐する業務に従事した経験(補佐経験)
※この手段①~③まではそれぞれ単独では年数が足りなくても、複数の経験を組み合わせることができます。
上記の手段で難しい場合の最終手段として、
<組織で要件を満たす場合>
手段④ 一定の要件を満たした常勤役員+その役員を直接補佐する者
を検討します。
つまり、裏を返せば経営業務管理責任者になれる人がいない場合でも建設業許可を取得できる場合があるということです。
ただし、どんなに要件を満たしていても、最終的に重要になるのがその経験を証明できるかということです。
実際に経験があったとしても、必要な期間や立場、業務内容を客観的な資料によって確認できなければ、建設業許可の審査上その経験を認めてもらうことはできません。
そのため、経営業務管理責任体制について判断する際には、
「誰が該当するか」→「どのルートが使えるか」→「その経験を何で証明するか」
という順番で整理していくことが重要です。
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